ちばてつや
「ハートフルシアター」
金子みすゞの世界
1.巡禮
巡禮
菜種の花の咲いたころ、
濱街道で行きあった、
巡禮の子はなぜ来ない。
私はわるいことしたの、
あのとき、お金は持ってたの、
あねさま三つも買えるほど。
そのあねさまも買はないで、
思い出しては待つてるに、
秋のひよりの街道には、
やんまとんぼのかげばかり。
2.ばあやのお話
ばあやのお話
ばあやはあれきり話さない、
あのおはなしは、好きだのに、
「もうきいたよ」といつたとき、
ずゐぶんさびしい顔してた。
ばあやの瞳(め)には、草山の、
野茨のはなが映つてた。
あのおはなしがなつかしい、
もしも話してくれるなら、
五度も、十度も、おとなしく、
だまつて聞いてゐようもの。
3.まつりの太鼓
まつりの太鼓
青葉に若葉、
若葉のかげを、
赤いかつこ履いて、
かつこ、かつこ、かつこよ。
あさぎのお空、
お空のなかで、
ほら、鳴る、太鼓、
とろんこ、とろんこ、とろんこよ。
白い街道、
競馬の馬は、
よそゆきお衣(べゞ)で、
かつぽ、かつぽ、かつぽよ。
4.祭りのあくる日
祭りのあくる日
きのふ、御輿の賑ひに
つい浮かされて残つたが
昨夜(ゆうべ)は遠(とほ)いお囃子に
芝居の夢をみてゐたが
覚めて母さん呼んだとき
みんなに、みんなで笑われて
そつと出てみた裏山の
おいてけぼりのお月さま
5.波
波
波は子供、
手つないで、笑つて、
そろつて来るよ。
波は消しゴム、
砂の上の文字を、
みんな消してゆくよ。
波は兵士、
沖から寄せて、一ぺんに、
どどんと鉄砲うつよ。
波は忘れんぼ、
きれいなきれいな貝がらを、
砂の上においてくよ。
6.夕ぐれ
夕ぐれ
「夕焼小焼」
うたひやめ、
ふつとだまつた私たち。
誰もかへろといはないが。
お家の灯(あかり)がおもはれる、
おかずの匂ひもおもはれる。
「かへろがなくからかァへろ。」
たれかひとこと言つたから
みんなばらばらかへるのよ、
けれどももつと大声で、
さわいでみたい気もするし、
草山、小山、日のくれは、
なぜかさみしい風がふく。
7.こころ
こころ
お母さまは
大人で大きいけれど。
お母さまの
おこころはちひさい。
だつて、お母さまはいひました、
ちひさい私でいつぱいだつて。
私は子供で
ちひさいけれど、
ちひさい私の
こころは大きい。
だつて、大きいお母さまで、
まだいつぱいにならないで、
いろんな事をおもふから。
8.かるた
かるた
お炬燵(こた)の上に、
お蜜柑積んで、
お祖母様、眼鏡、
キラ、キラ、キラリよ。
畳のうへにや、
かるたが散つて、
ちいちゃいお頭、ひい、ふう、みいつよ。
硝子のそとは、
しづかな暗夜、
ときどき霰が、
パラ、パラ、パラリよ。
9.大晦日と元日
大晦日と元日
兄さまは掛取り、
母さまはお飾り、
わたしはお歳暮。
町ぢゅうに人が急いで、
町ぢゅうにお日があたつて、
町ぢゅうになにか光つて。
うす水いろの空の上、
鳶は静かに輪を描いてた。
兄さまほ紋付き、
母さまもよそゆき、
わたしもたもとの。
町ぢゅうに人があそんで、
町ぢゅうに松がたつてて、
町ぢゅうに霰が散つてて。
うす墨いろの空の上、
鳶は大きく輪を描いてた。
10.積つた雪
積つた雪
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしてゐて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせてゐて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面(ぢべた)もみえないで。
◆◇ この背景は、みすゞさんが愛用していた着物の柄です。 ◇◆
☆★☆「金子みすゞ全集」JULA出版局より★☆★
☆★☆ ちばてつや氏の絵はコミックアルファより★☆★
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