この夏「金子みすゞ」



小久保俊三(文・写真(1998年))




8月17日、私は金子みすゞの故郷山口県の長門市仙崎を訪ねました。
兎に角、みすゞさんの生まれ育った町の空気に触れてみたい、
王子山から仙崎の町を眺めたい、そんな思いからでした。
手元のJR時刻表(6月号)で乗り物を調べ、
これでバッチリと思ったのが大違い。
小郡のバスセンターに来て、2時間余りのロスが判明しました。
仙崎に着いたのは、真夏の太陽が頭上から照りつけるお昼どきでした。



仙崎駅にて



先ずは腹拵えを、と海岸通りに食堂を見つけ、
新鮮な魚介類で盛り付けたランチを戴き、
それから目指す王子山へと向かいました。
リュックの、背中は勿論、胸までも汗びっしょりになりながら、
登り勾配の青海大橋を渡りきると、すぐ左手に王子山の北の登り口がありました。
山上は小さな公園になっていて、東屋の側に、

みすゞさんの詩「王子山」が刻まれた横長の大きな石の詩碑がありました。
やっと来た、そんな思いに暫し暑さを忘れて、眼下に延びる仙崎の町を眺めました。



王子山より(1)




王子山より(2)



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・・・・・・・・・・・
木の間に光る銀の海、
私の町はそのなかに、
竜宮みたいにうかんでる。
・・・・・・・・・・・
王子山から町見れば、
わたしは町がすきになる。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・


山を下り町並みに入ると、まず遍照寺を訪ね、みすゞさんの墓に参る。



みすゞの墓



人通りの少ない静かな町並み、涼しい路地を歩きながら、
ここがみすゞさんの育った土地だ、と思いました。
気のせいかほんのりと暖かい空気を感じます。



みすゞ通り



そこここの玄関が開け放たれ、風を通して涼をとっています。
どの路も掃き清められているようで、こざっぱりした懐かしい風景です。
町の中央を縦断する「みすゞ通り」では、
思い思いに掲げられたみすゞさんの詩が目に入ります。


白井商店(遠景)

(遠景で判りますか?)




白井商店(接近)

(何の詩でしょうか?)




白井商店(アップ)

(お日さん(さりげなく溶け込んで))


最近、腰痛であまり動いていないことを考え、計画は控えめに、
少なくゆっくり見て回ることで我慢したのですが、
それでも足腰に疲れを感じ、何度か座り込んでしまいました。
これで最後にしよう、と元気を出して目指したのは仙崎小学校。
校門を入ってすぐ右手、体育館の前に目的の詩碑がありました。


わたしと小鳥とすずと



そこに彫られている「わたしと小鳥とすずと」は、
小学校の国語の教科書に載っている一つで、
子供たちに大変人気があるそうです。
賑やかな子供の声に気付いてそちらを見ますと、
校庭の南東隅のプールでは、
子供たちが盛んに水遊びを楽しんでいる最中でした。
今回は、「二時間のロス」はありましたが、
取り敢えずの目的は達しましたので、仙崎小学校を最後に、
次の宿泊地萩へ向かうことにしました。


☆みすゞ通りの中程でしたか、文房具店にみすゞさんに関係する書籍や額が目に付き入って
みました。額は売り物ではない、自分で作って飾っているだけということでしたが、
汗びっしょりの私に同情してか、みすゞファンと思われてか、「水と影」の毛筆書きの
一枚を、「これでも額に入れるといいですよ」とプレゼントしてくれました。

☆王子山の帰り、青海大橋の途中に差し掛かりましたとき、右手の青黒く重かった海面の一部が、
急に明るく澄んだ紺碧に変わりキラキラと美しく輝きました。きれいだ!いいよう のない
嬉しさを感じました。それは、手前中央のその部分に丁度陽が射したのでしょう。
しかし、私には得難い美しさと映りました。その輝きは常の放射型の輝きと違って、小粒
真珠の輝きとでもいうか、丸く柔らかい光の玉が、澄んだ海、さざ波の上一面に踊っていた、
そんな風に映ったのです。

これは、みすゞさんの贈り物だ。私はそう思いました。こんな美しい景色に遭わせてくれて
有り難う。これは、猛暑の最中王子山に登った私への思いやり、
みすゞさんの優しさでしょうか。私はそう思っています。
本当は、カメラなど構えずに肉眼でじっと見つめ、心に納めるべきでしょう。
この輝き、この感動を写真に表現できない、フィルターもない、力がない、
と知りつつシャッターを切っていました。





日ざし






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