【私のネパール紀行】

ネパールみすゞ小学校
開校式に参加して(1)

< 文・写真:草場睦弘(みすゞ顕彰会理事、長門市門前在住)>


*** プロローグ ***


「ナマステ(こんにちは)」
「ナマステ(こんにちは)」
小さな手を胸の前で合わせた子どもたちが
口々に可愛い挨拶で迎えてくれる。
1995年12月17日
「ネパールみすゞ小学校」開校式の日だ。
迎えてくれる子どもたちの瞳は、
亜熱帯の強い日ざしにキラキラと輝き、
その笑顔をは底抜けに明るかった。


ネパールの子供

校門のアーチには、みすゞの詩「みんなをすきに」の1節を引用し、
「神様のおつくりになったみすゞ小学校」と書いてあると言う。
子どもたちから、濃い黄色のマリーゴールドと、
真紅のバラを連ねたレイを首に掛けられた私たち、
あまりの歓迎ぶりに思わず胸の底が熱くなった。

みすゞ小学校が建てられたのは、仏教の開祖、釈迦の生まれた
ルンビニ県シュッダールタナガール市(旧バイウラ市)ゴナビヤ地区。
つまり、みすゞ小学校は釈迦生誕の地に建てられたのだ。


みすゞ小学校プレート


*** 日本ネパール友好協会 ***

「なぜネパールに、みすゞ小学校なのか。」
私がよく受ける質問だ。少し長くなるが、その経緯を書いてみよう。
「ネパールに学校を贈る運動」はもともと群馬県箕郷(みさと)町の写真家、オギノ芳信さん
(日本ネパール友好協会=以下NNA=代表)が始められたものだ。

今から24年前の1972年、オギノさんは、
ヒマラヤの写真を撮るためにネパールを訪れた。
そこには貧しくともキラキラとした瞳の子どもたちが居た。
その子たちの笑顔に魅せられたオギノさんは、
山の写真はともかく、子どもたちを撮り始める。


ネパールの子供

しかし一方で、人と動物の共生と言えば聞こえが良いが、
牛、山羊、犬、鶏などが、
町の中を人間と同じ資格で歩き回り、
道路の傍に放置され生ゴミを食べあさる。
そして、必然的に発生する糞尿のタレ流し。
それが雨期(6月〜9月)には、雨で地面に広がり
そのぬかるんだ土の上を、子どもたちは裸足で走りまわる。
また乾期(10月〜3月)には、それが埃となって巻き上げられる。
道端には、野菜や果物などの食料を売る店がならび、
屋台で食べ物を売り歩く車もある。

トイレや入浴の設備も無いという状態の中で、
当然蝿などは珍しくなく、それは牛など動物ばかりでなく、
食べ物や人にまでまぶれついている。
このような、日本では想像もできない非衛生的な環境の中で、
免疫の少ない幼児は、当然生きづらいものとなる。
最近までは、5歳になるまでに、5人のうち3人の幼児が
死んでゆくという実情であった。

それを目のあたりにしたオギノさんは、
「自分に何か出来ることはないだろうか。」と考え、先ず
「子どもたちに、靴を履かせよう。」
と、日本から多量の靴を運び、履かせた。
しかし、その試みは失敗に終る。
なぜかと言うと、ネパールでは靴は高価な物である。
母親たちが町に持って行き、ミルク代などに換えたというのである。

オギノさんは、ネパールに通い始めて13年経ったとき、
「衛生観念を含めた教育の貧困がその原因にある。」と結論。
学校建設の運動を始めたのである。

*** ネパールみすゞ小学校 ***
同じ群馬県の吾妻郡東村に曹洞宗長徳寺という寺がある。
そこの住職酒井大岳さんは、
1993年4月4日、奥様が切り抜きした
朝日新聞の「天声人語」を読む。
そこには、金子みすゞという詩人のことと、
その作品「大漁」「土」、そして「私と小鳥と鈴と」の
三編が載せられていた。

大岳さんは、それを読んで尾てい骨を揺さぶられるような
衝撃を受けたという。
そして、「金子みすゞは、宗教家が、最も大切であるが
説くとこの難しい『観』というものを、
大変易しい言葉で言い表わしている。」
と、全国を股にかけ年間200回以上も行なっている辻説法を、
すべて金子みすゞの詩で語り始めたという。

その大岳さんは13年前からオギノさんのNNAの運動に
賛同し顧問をされていた。
それが、みすゞを知ることにより、
みすゞを甦らせた矢崎節夫氏と出会うことになる。

1994年3月、東京高田馬場で、大岳さんから、
ネパールの学校建設の話を聞いた矢崎さんは、
「物だけは豊かな私たちだから、
物が無くても心の豊かなネパールの子どもたちに何か出来る。
みすゞさんを好きな人たちなら、きっと協力してくれる。」
と、「みすゞ小学校」の建設を約束された。
その後、矢崎さん、大岳さんが全国を歩いての
講演で趣旨を訴えたり、
朝日新聞が全国的に取り上げてくれたこともあり、
またたく間に、1校分の建設費600万円が集まった。
また建設場所も決められた。


私のネパール紀行(2)



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